アルバート•ハモンドの『カリフォルニアの青い空』という曲があるが、その歌詞ではこんなことが歌われている。
「決して雨が降らないように思える南カリフォルニア 前からそんな話を耳にしたように思う
決して雨が降らないカリフォルニア、でもね、奴らは大事な事を言わない 本当はひどい土砂降りになるんだよ」
2017年10月、カリフォルニアはハリウッドを揺さぶったきっかけは、長きに渡り映画界を牛耳っていた大物プロデューサー ハーヴェイ•ワインスタインのセクシャルハラスメント疑惑がニューヨーク•タイムズによって報じられたことであった。「カリフォルニアの青い空」とでも言うべき、あたかも問題ないかのように平然を装う世界の実態が明らかになると同時に、皆が真実の鐘を鳴らしはじめたのである。この一連の動きは、2018年1月のゴールデングローブ賞、そしてグラミー賞が”単なる授賞式”となるのではなく、性的暴力の被害者が声を上げる「♯Me Too」「Time’s Up」が式典の事実上のテーマとなるほどまでに大きな影響を持った。その後3月に行われるアカデミー賞授賞式そのものに誰しもが注目した。これまでは、オスカーの行方を予想するのも毎年の楽しい行事であったが、こと今回は”単なる授賞式”となるはずがない。この式典で、あの壇上で、いかにして皆のこの気持ちが表現されるのだろう。そんな、少し不安の入り交じった気持ちで世界が見守っていた。
スピーチに見る声
今回のアカデミー賞では例年よりもまして、壇上に上がった者たちから発せられた声がただその場にいる喜びを表すものではなく、伝えなくてはならないメッセージとして受け止められた。
Salma Hayek“We salute the unstoppable spirits who kicked ass and broke through the biased perceptions against their gender, their race, their ethnicity to tell their stories,”
“As you can see, [we’re] so full of emotion and a little bit shaky.”
”Only trough originality,we can really get to the heart of real human stories.”
サルマ•ハエック「変革の扉を開いた人々の勢いは止まりません。彼らは偏見を打ち破り、性や人種、民族への偏見に立ち向かい物語を語るのです」
「なんだか胸が一杯で、少しばかり震えています」
「独創性によって初めて理解できることこそが、真の人間の物語なのです」
Ashley Judd“The changes we are witnessing are being driven by the powerful sound of new voices, of different voices, of our voices, joining together in a mighty chorus that is finally saying Time’s Up,”
“And we were together to make sure that the next 90 years empower these limitless possibilities of equality, diversity, inclusion, intersectionality. That is what this year has promised us.”
アシュレイ•ジャッド「この変化を支えるのは、力強い新たな声です。それは異なる声であり、私たちの声です。大勢の声が集結し、こう大合唱しています、時間切れ(Time’s Up)だと」
「次の90年は力を合わせていまの流れを押し進めましょう。平等、多様性、包摂、受容、それが今年の成果です」
Frances McDormand”If I may be so honored to have all the female nominees in every category stand with me in this room tonight. Meryl (Streep), if you do it, everybody else will, come on,”
“Look around, look around. … We all have stories to tell and projects we need financed. I have two words to leave with you tonight, ladies and gentleman: inclusion rider,”
フランシス•マクドーマンド「よろしければ、女性候補者の皆さん立ち上がって下さい。メリル(•ストリープ)、あなたが立てば続くわ」
「周りを見てください。これだけの人が企画を抱え出資を待ち望んでいるのです。皆さん、最後にこの言葉を残します。”インクルージョン•ライダー”」
『スリー•ビルボード』で主演女優賞を獲得したフランシス•マクドーマンドが壇上で強調した、「インクルージョン•ライダー(包摂条項)」。聞き慣れない言葉に、注目が集まりグーグル用語検索量が急上昇した。これは2016年に誕生した表現で、キャストだけではなく製作現場で働くスタッフにも性別や人種の構成を少なくとも50パーセントは多様なものにするように、俳優が出演契約を結ぶ際に付け加えることの出来る条項のことである。例えばマクドーマンドをはじめ、この授賞式に出席しているようなハリウッドのトップクラス俳優がこのインクルージョン•ライダーを率先して行使し出演契約を結べば、今までより多くの俳優•スタッフの道へ拓け映画製作の現場が変わるだろう。また、それだけではなく作品自体に関しても物語の舞台となっている場所の実際の人種•男女構成を反映した配役が実現する事で作品の質も現状より向上する。
この、何よりも具体的な提案が影響し、早くも一部のトップクラス俳優がSNS上などで支持を表明している。
ノミネートに見る声
今回、レイチェル•モリソンが『マッドバウンド 哀しき友情』にてオスカー史上初めて女性の撮影賞ノミネーションとなった。彼女はインタビューで、「女性の撮影監督」と特筆されてしまうような現状はばかばかしく、この仕事には性別は関係無い。もっと多くの女性が自分も撮影する側にまわれるのだということに気づいてほしい、と話している。
調べによると、2017年の興行成績250位までにランクインしている映画のうち女性の撮影監督による作品はわずかに4パーセントとなっているのが現状である。
『ブラックパンサー』ではマーベル映画作品としては初めて女性撮影監督として携わった彼女が、自身も望む「女性の」という肩書きを消す日を近づけているのは言うまでもないであろう。
そしてまた、女性として監督賞にノミネートされたのはグレダ•ガーウィグが唯一だった。もし受賞を果たしていたら、アカデミー90回の歴史のなかで女性監督として二人目のオスカー受賞者となっていた。
女性監督も非常に少なく昨年の興行成績トップ250のうちわずか11パーセントを占めるのみとなっている。
彼女は、式内でこう主張し、いま伝えたい物語がある全ての者たちに訴えた。
”Go make your movie.We need your movie.I need your movie.So go make it.”
「自分の映画を作って。皆がそれを望んでる。私がそれを求めてる。作って」
授賞式後にマクドーマンドはこう語った。
「もう後戻りはできない。『女性』がトレンド? 『アフリカンアメリカン』がトレンド?そうじゃない。それは今、変わります。」
このような世界の不均衡さは、当然映画業界だけの話ではではなく我々の生活に密接に関わることである。誰しもが自分自身の望む事に打ち込み実現出来る世界へと変わるべく、今皆が声を上げ前進しているのだ。
text by Shiki Sugawara