現役藝大生にして、シブカル祭やイメージフォーラム・フェスティバル、ポンピドゥー・センター主催の映像祭〈オールピスト東京〉で作品を発表してきたヴィデオアーティストであるUMMMI.(石原海)による初の長編映画『ガーデンアパート』が完成。本作は崩壊しそうな愛にすがって夜を彷徨う若い男女と、ひとりの狂気じみた中年の女性を長回しで追った一晩のメロドラマになっており、モデルとして活躍しつつ、写真作品やZINEも手がける篠宮由佳利らが出演。2018年大阪アジアン映画祭で上映され、3月30日にGalaxy銀河系で東京初のお披露目も決定するなど高い関心を集めている。UMMMI.名義でのヴィデオアートでも常に“愛”をテーマに制作してきた彼女は、初の長編映画でどのような物語を展開するのかーー。
———『ガーデンアパート』は現実的なのにどこか寓話が感じられる内容だと思いました。設定ではなく、感情面というか、ひかりの冷たさや太郎のだらしなさなど、それぞれの登場人物の性質に具体性があって。同時に、どうしても一人にはなれないというのも寓話的だなとも思いますし。
石原「映画の設定だけ見ると、100パーセント作り物だなと思う人が多い気がするんです。夜遊んで、お酒を飲みまくって、働かなくて、プラスチックみたいにフェイクだと。でも性質に現実を感じていただけたというのは嬉しいです。ああいったような、一人になりたいという気持ち、誰もいないところに行きたいというのは、他者がいる限り愛を求めてしまうという逃れられないカルマについて、考えてしまうからかもしれません。自分がひとから愛されない状態であることが納得できる状況に自分を置きたいという飢餓とも言えるような気もします。ひとと真剣に関係性を築こうとして愛されずに傷つくくらいだったら永遠に一人で生きていこう、という宣言でもあるというか。
アタシはいつも愛について考えているんですが、たぶんそれは愛が何かわかっていない反動なのかもしれません。本当は愛を信用していないめちゃくちゃ寂しい人間で、ひとと話すのも怖いんです。でも自分がこの先生き延びるための盾というか砦のような概念として、見えないものや、愛を信じようとしています。そんな中で私に出来ることは、今そばにいるひと、お世話になっている人生の先輩、いつも会うだけで生き返る心地のする大切な友達、目の前で一緒にビール飲みながら話しているひと(りょうこさん)など、そういったいま手の中にある手札を盲目的に信じながら、愛が揺らぎつつ生きることであって」
——まさにそういったUMMMI.さん自身の概念や揺らぎが描かれた作品でもありました。
石原「そうですね。小さい頃から家に親がいないことが多くて、引っ越しも多かったんです。中学からは親と離れて寮みたいなところで暮らすようになって、そういう寂しさが染み付いているというか、愛に馴染めないところがあります。アタシは人を好きになると、『早く死なないかな』って思ってしまう。今後そのひとが他の人を好きになるかもしれないとか、耐えられなくて。だから一緒にいて最高に楽しい時に死んでくれたら良いのになって。ひとには言えない背負っている絶望みたいなものが拭いきれないのかもしれません。恋人とどんなに愛し合っていたとしても、終わりを見つめていくだけの過程にすぎないなって思っています。最近絶望的なことがあったので、めっちゃ暗いこと言ってますね(笑)」
——(笑)。その向き合いたくないところにちゃんと対峙して作品を作っているという勇気を賞賛したいし、作品にオリジナリティがあるのはそれゆえだと思います。自身も揺らいでいるからこそ鋭敏に他者の感情の動きを見ていて。そして、この映画にマジックをかけているのが音楽です。素晴らしい選曲でした。
石原「大好きな4人のミュージシャンにお願いしています。普段からよく聴いている、不器用さとナルシスティックさと美しさがすごいバランスで同居したような音楽を作るCemetary。オーストラリアの女性ミュージシャンのScrapsはそんなに有名ではないのですが、実際に現地でライブを観て『いつかこの人のドキュメンタリーを撮りたい』と思わされたほど凄い人です。出演もしてくれたガールズたちのひとりであるALMAちゃんがライブしてくれているシーンもすごく気に入っています。2年前にALMAちゃんだけをフューチャーした短編の映像を撮ったりと、一緒にいると柔らかい心でインスパイアされる、めちゃくちゃ大好きな女の子です。彼女とはまた近いうちに新しいプロジェクトをやりたいねと話しています。あと、感動したのは戸張大輔さんの音楽を使えたこと。アンダーグラウンドのレジェント的存在の方で、10年に一度しかアルバムを出さないんです。全く知り合いではないんですが、どうしても使いたくてダメ元でレーベルに連絡したらお返事が返ってきて、すごく嬉しかったです。それで、オープニングに使わせてもらいました。映画の良いところは、人生が音楽と密接にあるように、映画も音楽と密接にあるところだなと改めて思いました。
本当に、音楽にはいつも助けられています。実はこの映画を作り始めたのは3年前で、撮影は2年前の夏。当時の感覚としては『うまくいってないのかも』というのがあって。演出も内容も具体性を帯びすぎていたような気がして悩んでいました。周りから早く編集しろと声かけられるけれど全然手をつけられかった時期があったのですが、ある段階で『映画なんて面白くなくていい』という気持ちになったんです。例えば何かを作らなければ生きていけないひとがいたとして、そこで真に重要になってくるのは、出来上がったものよりも、そのひとが『作ることを渇望していた・そして誰に見られるかもわからない作品を作らないと人生が進まなかった』という事実なんじゃないかなと。映画もそれでいいじゃないかと思ったんです。そう思えたことでやっと編集も出来て、映画祭にも応募しはじめたり。いつか長編映画を撮りたいと中学生の頃からずっと思っていたので、今回ようやく実現できました」
——その長く思い描いていた長編が『ガーデンアパート』であった。タイトルの意味を教えてください。
石原「アタシは自分があらゆる境界線の上に居るという気がしているんです。すごく人間が好きなんだけれど、本当は誰のことも信用出来なくてめちゃくちゃ怯えているというような。その中間ってなんだか庭みたいだなと昔からずっと思っていたんです。
生きていて守られているという感覚になったことが今まで一度もなくて。おそらくそこには愛はあるのですが、例えばほとんど一緒に住んだことのない家族や、恋人と一緒に住んでいたときもなんだか歓迎されていない気がしちゃって、いつも家よりもちょっと外にいる感覚というのが、庭にいるみたいだなと思っていたんです。愛のある内側ではなく、その近くで生活しているみたいな感覚。そこが庭だし、自分で発見した守られるべき場所を自分のオルタナティヴな方法で探していくというのが『ガーデンアパート』なんです。これはアタシだけの話ではなく、色々な理由で家に帰りづらい人が行く場所を『ガーデンアパート』と名付けようと思ったんです。その思いがずっとずっとあったので、初めて撮るぞとなったときに『ガーデンアパート』と名付けました。帰る家のないひとたちのシェルターのような、境界の上で成り立つ場所」
——すごく個人的な想いであり思い出ですが、多くの人の琴線にも触れることでもあって。恋人同士の関係性でも愛があるようだけど守られていないだとか、モヤモヤすることはあるだろうし、自分に置き換えて考えられる気持ちですよね。そこが描けているのは、繰り返しになりますが、作り手が身を削って向き合ったからだと思うんです。
石原「そう言われると、そうかもしれません。撮影中も大変で、初めて劇映画、それも長編を撮ろうとしたこともあって、頭がいっぱいいっぱいになってしまって、現場に行くだけで気持ち悪くなって吐いたりもしていたんですが、それは自分の身を削って映画を撮ることにぶつかろうとしていたからなんだなと今となっては思います。完成してしばらく時が経てば上映してもいいかなという気になるように、人間は辛いことがあってもなんとなく復活できる。復活させてくれるのは時間と睡眠で、なんだか意図せずに映画を作る段階も含めて人生そのものだなという映画になりました。登場人物であるひかりの持つ冷たさや冷静さと、京子の持つ嘘みたいな激しさが自分自身の中に同居していていたりして、登場人物全員が自分の一部でもあったことも影響しているかもしれません。
アタシは作品を作るうえで、極めて個人的なことは極めて政治的なことなんだと思っているんです。自分が愛しているひとが全く違う意見で違う国籍で違う環境で生まれ育ったとしても、そのひとを愛することはやめられない。そういう個人的な物語を描くということは政治に繋がるんじゃないかなと思います」
——ええ、そうやって主観で描かれることで観る側にとっても政治がごく身近だと感じられると思います。
石原「そうだと嬉しいです。哲学とか文学とか音楽とか政治とか、そういった文化に潜んでいる、ハードコア的なまたは救済的な部分に辿り着くことができない、生きるのがしんどい女の子は絶対いると思っていて。アタシがそうであったように、文化的な入り口のない絶望しかけている若い人たちにどうやって自分なりの魂を届けることができるかについても考えています。だからいわゆる文化度の高いひとだけがアクセスできるようなオルタナティブで格好いいことだけをやるのではなくて、本当はやりたくないけれど、入り口のない人たちもアクセスしやすいコマーシャルやファッションとももっと柔らかい方法で向き合っていきたい。かっこ悪いかもしれないけれどそれはアタシなりのハードコアであり、政治だと思っています」
——その入り口になりたいという想いからか、『ガーデンアパート』はどこに向かわないようでいて、実は再生の話なんじゃないかと思えたんですね。光があるというか。
石原「この人で良いのかなと思いながらも一人の人と一緒に居続けてしまうみたいなことって、アタシは惰性だとは思わないんです。それは光だなと思います。色々とあるなかで生きているのはしんどいけれど、諦めて関係をやめたり、あるいはうっかり死んだら終わりじゃないですか。死ぬのは楽だけど死んだら終わりだから、自暴自棄を認めることで再生するといったようなギリギリの絶壁で踏ん張る。完成度が低くて面白くもないけれど、監督がそれを作らなければ生き延びることが出来なかった映画をアタシはこれからも作ってしまうのだろうし、いつかそういうタイプの映画を集めて映画祭をやりたいなと思っています。みんなで愛と柔らかい心で、一緒に映画という奇跡に向き合いたいと思っています」
『ガーデンアパート』ライヴ付きイベント上映
2018年3月30日(金) 19:30~
Galaxy銀河系 (東京都渋谷区神宮前5-27-7-B1)
1,500円 + 1Drink
要予約:氏名・人数・電話番号を書いて以下にメールをお願いします。
thegardenapartment.movie@gmail.com
19:30- 開場
20:00- 「ガーデンアパート」上映 & 舞台挨拶
21:30- ALMA, Cemetery ライブ
http://thegardenapartment-movie.tumblr.com/news
UMI ISHIHARA(UMMMI.)
http://www.ummmi.net
『ガーデンアパート』
英題 : The Garden Apartment
http://thegardenapartment-movie.tumblr.com/
2017年 / 日本 / 77分 /カラー
監督・脚本:石原海
共同脚本・プロデューサー:金子遊
アソシエイト・プロデューサー:中村安次郎
出演: 篠宮由佳利 / 竹下かおり/鈴村悠/石田清志郎/
石原ももこ/稲葉あみ/彩戸惠理香/Sac/Alma/森雅裕/奥田悠介/塚野達大
音楽:Cemetery / 戸張大輔 / Scraps
撮影:チャーリー・ヒルハウス
録音:川上拓也
美術:三野綾子
スチール写真:ヴァンサン・ギルバート/黒田零
ヘアメイク:藤原玲子
スタイリスト:塚野達大
スタッフ:奥田悠介/太田明日香
協力:幻視社
THANKS
伊藤俊治/曽我部恵一/山口桂/細倉真弓/河部菜津子/若林良/佐藤鉄舟/黒沢聖覇/臼井拓朗/青木康浩/小川莉生/小関奈央/ジュンコサイトー/小山陽平/福田博行/三砂夕紀子/渡邉晴子/トーマス・眞弓/てっこ/HANA/Keiichi Ishizaki/HALEO/Kagiwada Keisuke/Matt Livingston/YURIA/Tomo Kawabata/Tomoko Oga/Haneda Mieko/A.Saito/RYO/Mangrove/TAKUYA TAKESHIMA(BAMBOO/ASTRON)/Bobby Nakanishi