鬼才。いや、我々はむしろ彼を、モンスターと呼ぶべきなのか。何れにしてもレフンの作り出す強烈なヴィジュアリティは、観る者の目を見開かせ、畏怖の念すら起こさせる。そしてこの怪人の放つ最新作が『ネオン・デーモン』だ。幾度も孵化し続ける蝶のごときレフンが本作で描くのは、ファッション・モデル界を舞台にした寓話的な絵巻物。もちろん一筋縄では行くはずもなく、やがて狂気は静かに美しく暴走し、想像の範疇をはるかに超えた展開へーー。
取材部屋に現れたレフンは思いのほか、家庭的なお父さんと言う印象だった。殺到する取材の中、どうにか時間を作って自分用のフィギュアを買いに中野ブロードウェイに、そして子供達へのお土産を買いにジブリ美術館へ行きたいと口にし、ふと表情を緩める。しかし、いざクリエイティブについて話題が移ると、「映画」という概念にとどまらない非常に鮮烈な言葉が飛び出した。なぜ常識を覆し続けられるのか。そのパワーの源は何なのか。このインタビューを通じて、未知なるレフン・ワールドへ迫ってみたい。
————いやはや、今回も強烈な作品でした。前作のライアン・ゴズリングから今回の新作ではエル・ファニングへと主人公の座がバトンタッチされています。二人はいわば唯一無二のレフン・ワールドからやってきた親善大使とも言える存在かと思いますが、彼らが持つレフン作品の主人公たり得る資質とは一体どのようなものなのでしょう?
ニコラス・ウィンディング・レフン(以下、レフン)「だって、二人ともまるで火星から来たみたいだろ?それくらい飛び抜けてユニークなんだ。他の誰とも違う。なのに、何かこう、ぐっと共感できる部分を持っている。彼らは『現実』と『映画』の狭間にある世界を、どちらに振り切れるということなく歩き続けることができる人たち。それでいて、まさに私の分身のような存在とも言える。今回の『ネオン・デーモン』でも、エル・ファニングがどんどんデーモン化していくにつれて、私自身の“乗り移った感”はどんどん高まっていったね(笑)」
————田舎から上京してきたヒロインがオーディションに受かり、あどけない表情が徐々に変化し自信をみなぎらせていく様は観ていて圧巻でした。
レフン「うん、私はトランスフォーメーション(変化・変身)という概念がすごく好きなんだ。実は過去の作品でも全て一貫してこの概念を投影させていて、毎回、全く異なるストーリーの中でこのテーマを成立させようとするものだから、それはそれで随分と頭を悩ませることになるんだけれど」
————なるほど。そのトランスフォーメーションをもたらす一因として、『ネオン・デーモン』では“美への執着”が描かれます。しかも何かを破壊してまで願望をかなえようとする壮絶な過程を垣間見た思いがしました。これはレフン監督の映画作りやクリエイティブに関する姿勢、向き合い方とも共通するところがあるのでしょうか?
レフン「そうだね、私にとってのクリエイティビティもまた、ある種の“破壊”を伴うものだ。その破壊された残骸の中から再び何か新しいものが生まれてくるものと考えている。壊して、再構築する。それがクリエイティブの基本だと思うし、私が映画を作り続ける意味と言ってもいい。
また別の言い方をすると、クリエイティブとは、あるいは欲望を掴み取る行為とは、絶対に手に入れられないものをどうにかして手に入れようともがき苦しむ事でもある。でもいくらそう望んだところで、欲しいものはいつもスルッと手からすり抜けていってしまう。だからこの過程には終わりがないんだ」