スイカの名産地はどこにあるのか?
そもそも名産地とはどんな場所なのか?
さっぱり理解できないのに、とにかく興奮するのであった。
最初の頃は、踊り狂う僕を同級生たちも呆然と見ていたが、
次の週には、男子のほとんどがステージに上がり、
ちょっとしたモッシュ状態と化していた。そんな光景を、
先生とクラスの女子全員が、
少しの微笑みと大袈裟なため息を尽きながら、ただ眺めていた。
その冷たい目線も妙に心をくすぐり、
次の週から日に日に踊りはどんどんと熱気を帯びてくるようになっ
ていった、そんなある日。相変わらずの「スイカの名産地」
で僕を筆頭に男子の踊りがピークを迎えていたその時、
教室の後ろのドアが突如開いた。そこに現れたのは担任の先生。
前日ベイスターズは大負けをしている。
僕と先生は教室の前方後方で、バッチシと目が合った。
一瞬にして、陽気な「スイカの名産地」の演奏も静まり、
クラスメイトたちも、シーンと静まり返った。
およそ時間にして2秒ぐらいの出来事だが、
まるでスローモーションかのように長く感じられた。
リーダーは間違いなく僕で、
その事実はとっくに音楽の先生から担任の先生へと話が伝わってい
るに違いない。
「あ、もうここまでか!地獄の名産地!」
と訳のわからないことが頭によぎりながら、
自らの最後を覚悟した瞬間だった。火事場の底力、またの名を「
ヤケクソ」と云うのだろうか。人生初めて、
ピンチをチャンスに変える瞬間というものを経験した。僕は、
とっさに担任の先生から目を離し、より激しく踊り出した。「
スイカの名産地」は流れてこない。この際、音楽なんていらない。
踊りたいから踊ってやるんだ。
意味不明のこの逆転の発想が刻むステップに、
夢中で没頭していると、また「スイカの名産地」
が聴こえてくるではないか。
ゆっくりと目を開けて回りを見渡すと、
音楽の先生は爆笑しながら、ピアノをまた弾き始めていたし、
仲間も一緒になって踊ってくれていたし、何より教室の後方で、
担任の先生が何故だか満足げな顔をしながら、
肩でリズムを刻みながらこちらを見ていた。
僕は怒られないで済んだ、と云うホッとする気持ちよりも先に、
嬉しさがこみ上げていた。この気持ちは、
どう説明することも出来ないのだが、簡単に云えば
「認められた」
という一言が一番近い気がしている。
とにかく、それ以来、僕は「目立ちたがり屋」
と云う店を営んでいくこととなる。そして、
クラスにおけるリーダー的なポジションを獲得した瞬間でもあった
。
そういえば、この「スイカの名産地」騒動において、
男子の殆どが僕に加勢して、騒いでくれていたのにも関わらず、
一人だけ席に座ったまま大人しくしていた同級生がいた。
彼の見た目、完全なる外国人で一人だけ髪の毛も茶色く、
目は青っぽかった。そして、とても静か少年だった。