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text by Daisuke Watanuki
photo by Yudai Kusano

「自分で抱え込むのではなく、誰かに話すことで変わることもある。今作を通してカウンセリングやケアの大事さを実感しました」 坂東龍汰『君の忘れ方』インタビュー




「人はどう悲しみと向き合えばよいのか」という普遍的なテーマを軸に、大切な人の喪失からの再生を描く劇場長編映画『君の忘れ方』が1月17日(金)より公開される。近年注目される「グリーフケア」を主題にした本作で主演を務めるのが、今作が初の映画単独主演となる坂東龍汰。悲しみと向き合わなくてはいけない苦しい役柄に、どんな思いを抱えながら挑んだのだろうか。




これは自分と向き合うきっかけになる作品


──単独初主演作となりますが、オファーを受けた時の心境はいかがでしたか?


坂東龍汰「今作はマネージャーさんから『この作品をやります』とまず伝えられて。相当信頼している内容なんだろうなと思いました。実際に本を読んで、『これはやりたい』と自分でも思いました。運命的というか、使命的というか」


──オフィシャルインタビューで、脚本を読まれた際に、『他人事とは思えない本だった』と仰っていました。運命的というのは何かご自身も近い体験をされているということでしょうか。


坂東龍汰「まず、監督がこの脚本を書くに至った経緯をお手紙でいただきました。監督自身、小学生の頃の経験から大切な人を失う影響の大きさを知っている方。文章から本作に対する熱量がすごく伝わってきました。そして僕自身、過去に同じような経験をしているので、これは自分と向き合うきっかけになる作品で、受ける意味があると改めて思いました」


──そのつらさはもう乗り越えられていますか?


坂東龍汰「まだ正確に受け入れられていないことのほうが多いです。だからか、その事実自体、僕はちゃんと悲しいと思えていなくて。ただ僕はあまりに幼かったので、そのことに関しては僕よりも父のほうがそのことと向き合ってきた人生ではあったと思います。今回の役を演じる上で、父に改めて話を聞いてみました。当事の気持ちなど、初めて聞く内容も多かったです」


──それはお互いにつらい作業でもあったのでは?


坂東龍汰「そうかもしれないですね。でも僕にとっても父親にとっても、いい時間だったなと思います。その大切な時間を得るために受けたと言っても過言ではないかもしれないです、この作品は」


昴として一緒にグリーフケアのことなどを学んでいく気持ちで演じよう





──昴という役をどのようにつくり上げていきましたか?


坂東龍汰「本作は監督の経験や思いが一番大事だと思うので、それに力添えをできるよう、昴がちゃんと映画の中で生きられるような準備はしていこうと思いました。普段もやるような映画を観たり本を読んだりという作業はもちろんしていったのですが、役をつくる上であまり知識を入れていくのはやめました。昴の人物像を自分で決めつけるのをやめて、まっさらな状態で挑むようにしていました。きっと現場で出会えるだろうという確信があって」


──気合を入れた初主演でそれができるのはすごいですね!


坂東龍汰「僕も最初は座長として引っ張っていくためにはある程度背伸びをしなければいけない」と思っていたのですが、プロデューサーさんとも話をして、今回に関しては気負いしすぎず、あるがままに主観で感じた通りに演じていったほうが作品の純度が高まるのではないかという話になりました。普段ドラマなどをやっていると、視聴者が観たときにどう思うかなど、客観的なことを考えがちなのですが、今回それを気にすることなく純粋に昴として一緒にグリーフケアのことなどを学んでいくような気持ちで演じようと思いました」


──知識を入れなかったのも、役と一緒に成長していったほうがリアルに演じられるという思いからだったんですね。


坂東龍汰「そうですね。昴を追いかけたドキュメンタリーみたいなものになっても面白いのかなと思っていました。だからあんまり我を出しすぎずに、この映画の中で昴と同じ気持ちになるように心がけました。ただ、普通はどんどん演じていく過程で役への理解が深まっていくものですが、今回不思議だったのは、昴という役がどんどんわからなくなっていったこと。撮影中、僕自身どんどん混乱していって」


──それはまさに昴という役そのものですね。昴自身、自分の傷と向き合うことで余計に自分がわからなくなっていく役でした。


坂東龍汰「誰かの死を描く作品はそれをドラマチックに見せるために、生前のその人との時間をたっぷり描いて見せることが多いじゃないですか。でも本作はその逆のパターン。死を起点に物語が始まるので、余計に難しい部分ではありました」


──「グリーフケア」が主題としてありますが、その概念はご存知でしたか?


坂東龍汰「これまで知りませんでした。でも父親は知っていたみたいで、興味があったと話してくれました」


人は人によって生かされている、救われているんだなと理解できた





──本作では「つきあかりの会」という、死別を経験された方が、お互いの気持ちを分かち合うための自助グループが登場します。グループセラピーを丁寧に描いている作品でしたが、役として参加されてみていかがでしたか?


坂東龍汰「大事だなと改めて思いました。こうやって人は人によって生かされている、救われているんだなと理解できました。実はその撮影の日がちょうど監督のお父さんの命日に重なったそうで、その話を撮影の時に聞いて、めぐり合わせを感じました。僕もあの場に、美紀(西野七瀬さん演じる、亡くなった婚約者)が来てるなあという感じがしたんです。神秘的な経験でした。あのシーンから昴自身が変わっていったと思います」


──昴は最初、グリーフケアやカウンセリングも必要ないものだと捉えている役でした。


坂東龍汰「僕自身も、最初はそうでした。グリーフケアについての知識もありませんでしたし。実際に昴を演じていく中で、昴と一緒にケアの過程を肌で感じていくということは大事だったと思います。最初から『ケアは必要だ』と知識を詰め込んで、わかった上で芝居をしていたら、昴という役はうまくできなかったと思います」


──作道監督についても伺いたいです。


坂東龍汰「現場は本当にやりやすかったです。自分が本質的に好きなものなどの共通認識が同じだったことは大きかったなと思います。そしてなにより、自分の芝居を信じてくれたことが嬉しかったです。信頼しあえていたので、お互いに何かを曲げることなくとことんやれた。それは僕の成長にもなりました」


──母親役の南果歩さんはいかがでしたか?


坂東龍汰「本当に血のつながったお母さんのように感じました。母親の家系の女性陣に雰囲気がすごく似ていて、他人とは思えなかったです」


──印象に残ったやりとりはありますか?


坂東龍汰「果歩さんからは『あなたの人生が多分この作品を引き寄せているし、その逆もあって、多分監督の人生が坂東龍汰を引き寄せてる部分もある。吸引力でこういう作品を作れている現実が今あるんだね』という言葉をいただきました。今でもその言葉が心に残っています」


心が痛いと体も痛くなる。今作を通してカウンセリングの大事さを実感しました





──本作は最愛の人である美紀の死をどう受け入れるかということと同時に、母親と向き合う物語でもあったと思います。


坂東龍汰「そうですね。果歩さん演じる母親に対して昴が言っている台詞は、実はそのまま自分に向かって言っているんだろうなと思う場面が何度もありました」


──ご自身が悲しい経験をされた際に、自分自身を癒やすためにどのようなことをしていますか?


坂東龍汰「悲しみはあまり考えないようにしています。だからといって寝たらなんとかなるというタイプでもないので、今作を通してカウンセリングの大事さを実感しました。過去に悲しい経験をした際は、立ち直り方などを検索していましたね。どうやったらこの体のしびれがなくなるのかとか。心が痛いと体も痛くなる。ちゃんとつながっているんだなとその時に知りました。体中が痛くて、朝起きたらしびれていて。でも役者としてはそういう経験を学べたことを嬉しく思ったりもして。つらいというのも、それだけ感情が動いているということなので。そういうときにしか感じることができない気持ちを知ることができました」


──震災やコロナ禍などを経験すると、余計にグリーフケアの重要性を感じます。


坂東龍汰「そうですね。海外ではカウンセリングの文化がある国が多いですが、日本ではまだまだ認知もされていないですし、通いづらい側面があると思います。それでも今後はもっと日本でも力を入れて取り組む必要があると思います」


──世界の紛争などをテレビ等で観るにつれて、死があまりに身近にある人々がいる現状に対しても苦しい気持ちになることがあります。


坂東龍汰「わかります。僕ものんきに映画をつくっていていいのかと思うときがあります。折り合いはなかなかつかないですが、やるからにはいい作品を残していくしかないですね」


自分からは何も話さず、そっと近くにいます




──本作を通して、ご自身の中で変わった部分はありますか?


坂東龍汰「ケアの重要性を知ることができたことです。僕自身、それによって昴同様に救われました。だからこそ、必要な人のところへちゃんと届く作品であってほしいと思います。たとえば先ほど話にでた世界の紛争の映像を見て傷つく、ということであってもケアは必要だと思います。それを自分で抱え込むのではなく、誰かに話すことで変わることもあるのではないでしょうか。僕自身は、20代前半までは相手を問わずいろんなことを話せたタイプですが、最近はためらうことも増えてきました。それは相手に負の感情を背負わすことへの懸念から。話したときに受け止められないキャパの人もいると思うんです。だからこそ、カウンセリングなど専門的なところでちゃんと話をしたり、ケアを受けるということが大事なのかなと思います」


──最後に、もし目の前に悲しみに暮れる人がいたら、坂東さんはどう声をかけますか?


坂東龍汰「自分からは何も話さず、そっと近くにいますかね。何か話したくなって口を開いてくれたら、話を聞きます。本作もそういう届き方をしてくれたら嬉しいですね。観ている人がいろんなことに思いを馳せたり、そっと背中を押されるような作品になってくれたらうれしいです」


photography Yudai Kusano(https://www.instagram.com/yudai_kusano/
hair&make-up Yasushi Goto(OLTA) (https://www.instagram.com/olta.goto/
style Yasuka Lee(https://www.instagram.com/leeyasuka/
text Daisuke Watanuki(https://www.instagram.com/watanukinow/



『君の忘れ方』
2025年1月17日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
公式サイト:https://kiminowasurekata.com


【STORY】
ラジオの構成作家の森下昴(27)は、付き合って3年が経つ恋人と結婚間近。仕事の傍ら、結婚式の準備に追われていた。式で披露するための、思い出の写真をまとめていた昴。しかし夜になっても、彼女は帰って来なかった。
「思い出し方がわかった時、君をちゃんと忘れることができる」
昴が経験する、不思議な出来事の数々。そして切なくも愛しい、追憶の日々とは――


出演:
坂東龍汰
西野七瀬
円井わん 小久保寿人 森 優作 秋本奈緒美
津田寛治 岡田義徳 風間杜夫(友情出演)
南 果歩


監督・脚本:作道 雄
エンディング歌唱:坂本美雨
製作総指揮:志賀司
原案:一条真也『愛する人を亡くした人へ』(現代書林・PHP文庫)
プロデューサー:益田祐美子 羽田文彦 音楽:平井真美子 徳澤青弦 共同脚本:伊藤基晴
製作幹事:セレモニー 平成プロジェクト
制作プロダクション:セレモニーエンタテイメント マウンテンゲート
配給:ラビットハウス 
Ⓒ「君の忘れ方」製作委員会2024


knit ¥26,000/ pants ¥47,300(AMOMENTO)
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