日本版CNC設立を求める会が「制作現場でのハラスメント防止ハンドブック」配布を開始した。内容は昨年、同会が発表した「現場責任者が講じるべきハラスメント防止措置ガイドライン草案」を、メンバーの西川美和を中心に、制作現場で働くすべての関係者向けに再編集、台本に刷り込みが可能な形式に整えたもの。12月22日(金)より同会WEBサイトにて配布されている。
縦書きのデザインはグラフィックデザイナーの大島依提亜氏、イラストは朝野ペコ氏が担当。また、台本印刷の三交社の協力により、問い合わせければ誰でも台本への刷り込みが可能となっている。
既に同会所属の是枝裕和監督、内山拓也監督の新作撮影現場では、台本への刷り込み、撮影前にスタッフ間での読み合わせなども実施されている。今後は、映像関連の各団体とも連携し、より多くの作品への普及に努めるとのこと。
ハンドブックの内容(見本ページ)や印刷の刷り込み方法、料金などは同会のサイトから確認できる。
https://www.action4cinema.org/howtouse/
【コメント】
西川美和監督
韓国では、映画監督組合(DGK)が「性暴力防止のための行動綱領」を台本に印刷していると聞き、日本の現場でも、全てのスタッフの手元に届くハラスメント予防のハンドブックを作れないかと思いました。
映像の制作現場は、様々な職種・年齢・立場の人が入り混じり、密な人間関係のもとに緊張感の続く仕事場です。時代の移り変わりとともに「かつてのやり方」では持続しないと多くの人が自覚しながらも、ハラスメントについて学ぶ機会や相談窓口は十分に整っていません。
オーディションや性的な表現の撮影など、映像制作現場に特有な例も挙げながら、誰でも、いつでもハラスメント予防の基礎を見直せるものを目指して、12ページにまとめました。
作成の過程では様々な人がご賛同くださり、台本のどこにでも挟める縦書きデザインを大島依提亜さんが、やさしいイラストを朝野ペコさんが添えてくださいました。また、起きてしまったハラスメントの再発防止について、臨床心理士・公認心理師の中村洸太さんがコラムを寄せてくださっています。
このハンドブックを現場で活用してもらい、折にふれて読み直してもらうことで、安全な現場づくりが広がっていくきっかけになればと思っています。
是枝裕和監督
現在全7話のドラマを撮影中なのですが、このハンドブックを7話全ての台本の末尾に印刷しています。
当たり前ですが、もちろんそれだけで何かが改善されたり解決したりはしません。しかし、日々働く現場で、台本を開くと必ずこのハンドブックの文言やイラストが目に入ります。それが、毎日積み重なるだけで、スタッフそれぞれの意識は確実に変わるはずです。少なくとも僕は、常に自分のスタッフへの言動が役者への演出が、そのように伝わっていないか?問い直しています。映画製作の環境改善への取り組みとしては小さな一歩かも知れませんが、この一歩が、業界全体に広がれば確実に風向きは変わるはずだと信じています。
内山拓也監督
制作現場のハラスメント防止ハンドブック」を制作いたしました。まずはじめに、お力添えをいただいた各専門家の皆様に、この場を借りて改めて御礼申し上げます。
先に撮影した「若き見知らぬ者たち」の現場で台本に印刷する形で使用し、クランクイン前の全体ミーティングでもスタッフ全員で確認し合いました。導入にあたり、プロデューサーや、関係各所と連携を取りながら進めましたが、その対話をする時間そのものがまず大切で、意義深いものだったと感じています。手引きとなるようなハンドブックがあることを喜ぶスタッフ・キャストがいたり、他現場からも使用したいという声をいただきましたが、これは現物として手元にあったからこそ生まれた声だと思うので、制作したことを前向きに捉えています。実装効果があったかどうかは、監督の一視点だけでは到底語れませんが、現場として一度冷静になって立ち戻れる場所があること、身を引き締め、意思統一が出来たこと、それらが士気を高めることには繋がったと思っています。
このハンドブックをキッカケに、様々な取り組みが広がっていくことを期待したいです。
「制作現場でのハラスメント防止ハンドブック」
制作・発行:action4cinema/日本版CNC設立を求める会
協力:大島依提亜(印刷版デザイン)、朝野ペコ(イラスト)、中村洸太(コラム)、株式会社三交社(印刷)、株式会社SaaS(HP制作協力)、Creative Guardian(協賛)