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text by Yoshiyuki Ishikawa

ロンドンのクラブに安全を。クィアセキュリティ・ウェルフェアチーム「Safe Only Ltd」インタビュー/ Interview with Safe Only Ltd, the queer welfare and security team in London clubs



イギリス・ロンドンのクラブは危険な場所になることがある。性暴力、レイシズムやスパイキングの事件は後を立たないほか、クィアの人たちが標的にされる暴力も報告されている。2022年1月、東ロンドンのクィアパブで、ドアにいたセキュリティスタッフが顧客4人に暴力を振るい、1人入院する事態になった。クラブのセキュリティからのホモフォビック・トランスフォビックな言動、さらにクラブ内でのケアの欠如を前に、2022年にクィアコミュニティ主導のセキュリティ・ウェルフェアチーム「Safe Only Ltd」がセキュリティ・インダストリー・オーソリティー(SIA)認可され、設立された。Safe Onlyの「ウェルフェア」の実践、ナイトライフでのケアの労働と基盤について聞くために、Safe Only共同設立者のヤニス(Yannis Katsoris/写真右)にインタビューした。



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— ご自身のこと、そしてSafe Onlyを立ち上げるに至った経緯について教えてください。


ヤニス「ヤニスです。ダニ・シンガーと一緒にSafe Onlyを運営しています。2人で一緒に始めたのは、現状を少し変えたいと思ったからです。私たちは2人とも何年もパーティーに行っているパーティーアニマルでした。私はギリシャで育ったから毎年夏はパーティーに入り浸っていましたが、残念ながらギリシャはゲイシーンがあまり大きくなかったから、ロンドンに移り住んでこちらで夜遊びに出かけるようになりました。すごく楽しんでいましたが、クラブのセキュリティやスタッフが正しい言い方を知らなかったり、自分が助けが必要でも彼らがどうすればいいか知らなかったりして、自分は歓迎されていない、居心地が悪いと思わされることがあったんです。


私とダニは友達の家でのパーティーで出会いました。ロックダウン中だったのでかなりいけない話です。ロックダウンがやっと終わると、またクラブに出かけて、パーティーするのが楽しみで仕方ありませんでした。でも、長い間ナイトライフから遠ざかっていたあと、そのおかしいところが再び突然見えてきたんです。そのとき、これに対して何かする必要があるのではないかと考え始めました。


たまたま私たちは何回かドラァグショーで一緒にドアを担当していたのですが、人々は私たちが一緒にドアにいるのを気に入ってくれました。それで私たちは、これをやってみようと思ったんです。そこでセキュリティの免許を取りました。セキュリティ・スクールに通い、そこから、当初は考えていなかったウェルフェアが始まりました。セキュリティは必要ないけれど何らかの他の手助けがいる人を実際に助ける必要性がパーティーでは常にあるんです。長い間パーティーに通っていたから、プロモーターは私たちのことを知っていました。私たちに声をかけてくれ、初期からブッキングしてくれましたし、みんなも応援してくれてました。タイミングが良かったんだと思います」

— ロンドンには「Ask for Angela」や「Good Night Out Campaign」といった、性暴力防止に重点を置いた取り組みがすでにありますね。これらに加えてSafe Onlyを始めた具体的な動機は何だったのでしょうか?


ヤニス「Safe Onlyはクィアの声を拡大する必要性から生まれました。というのも、クィアの人たちはナイトライフの形成に貢献してきたのに、それが忘れ去られ、優先順位も変えられているように感じるからです。私たちは、クィアの人たちのためにそれを取り戻し、彼らが楽しい時間を過ごせるようにしたかったんです。たとえどんなことが起こったとしても、彼らが遊びに出るたときに、良い夜であることを確実にしたかった。少なくとも、誰かがあなたを助けてくれるように。それが私たちの原点で、今はいろんな方向に拡大しています」

— 先ほど「セキュリティ」と「ウェルフェア」の違いについて言及されました。説明していただけますか?


ヤニス「その違いは私たちにとって大きなものでした。私たちがセキュリティからスタートしたのは、そこが問題と思ったからです。もちろん問題のあるセキュリティの警備員はたくさんいますが、問題は今の実際の法律なのです。あなたがセキュリティであれば、イギリス政府からの一定のルールや法律を守らなければライセンスを失う可能性があります。政府は薬物乱用やナイトライフなどに対して非常に厳しい法律を課していますし、トランスの人たちにとっても現状はあまりよくありません。セキュリティをするだけでは、実際にすべての手助けを提供することはできないと気づきました。


ウェルフェアというのは比較的新しく作られた仕事です。まだ規制されておらず、できることに制限がありません。本質的に、“ウェルフェア”とは“ウェルフェアの人”のことです。“ウェルフェア担当者”とか“ウェルフェア・セキュリティ”とは言いたくない。ウェルフェアは、クラブに行くのが大好きで、パーティーにいるほとんどの人と友達であるような人のことで、誰かの帰宅の手助けが必要な時、少し気分が悪くて5分間だけリラックスしたい時、ただ誰かと適当におしゃべりしたいときに、そこにいる。多くの場合今まで遊びに出たことのない新しいクィアの人たちのためで、その人たちは仲間を探していいます。そんなとき会場であなたを出迎えて、『いいところだよ、出会いのお手伝いもするし、何かあったらここにいるよ』と言ってくれるウェルフェアの人がいるのは、とてもいいことだと思います。


ナイトライフですから、みんなアルコールだけ飲むわけではありません。ナイトライフの場合人々はドラッグも使うことに気づく必要があります。あなたがセキュリティであれば、法律に縛られているので、ドラッグを持ったまたは使用した人に危険があっても必ずしも与えたい手助けができるわけではありません。その人のドラッグを没収しなければ、あなたはライセンスを失うこともあるとだから。でも、あなたがウェルフェアであれば、どのドラッグを使ったか人々は正確に伝えることができますし、クラブから追い出す必要もない。ただ助けることができます。声をかけたり、手を握ったりするようなこと、そういう単純なことがパーティーで変化をもたらすのです」


— そのようなハームリダクションの原則(ドラッグの使用そのものを避けることよりも、ダメージを防ぐことと、 ドラッグを継続して使う当事者に焦点を当てる)があなたたちの仕事にどのように反映されているのか具体的に教えてください。


ヤニス「これは難しいところで、現在の法律では薬物の使用を促進することは許されていません。ハームリダクションを行うのであれば、薬物の摂取方法を指示することはできないのです。例えば、『G(GHB)ショットの注射器を使って、正しい量のGを取れるように確認してね、そうしないと大変になる』と言うことは許されていません。そうするとクラブはライセンスの問題で閉鎖させられる可能性があります。だから、例えば『もし誰かがGを使っていたとしたら、これを防ぐためにこうするべき』というような言い方が必要です。このような小さなことをナビゲートしなければならないし、必要な道具も揃えることができないから、注射器を渡せない。何をすればいいのかを正確に教えることもできない。


同じようなトリックとして、先ほども言ったように“ウェルフェア担当者”ではなく“ウェルフェアの人”と呼ぶことが非常に重要です。ウェルフェアの人は、本質的にはパーティーにいる人で、あなたが使っているドラッグがどんなものかやその方法を教えてくれるだけの人です。ただパーティーにいる人たちの間でお互いに話をするだけだから、何も問題ありません。そういう窓口は必要で、そういう選択肢があるのはいいことだと思います。プロモーターにもそのように伝えています。もちろん、誰かがドラッグの入った袋を取り出し、私たちがそれを見てしまったら、その人はもちろん出ていかなければならないか、少なくともドラッグをゴミ箱に捨てなければならない。しかし人は賢いです。追い出されるのが嫌ですから、言うことを聞いてくれますし、少し話せば、あなたの言っていることを理解してくれます」





— イベント会場やオーガナイザーとどのような関係で仕事をしていますか?


ヤニス「ほとんどのクライアントは私たちが何者か知っていて連絡をしてきます。私たちの小さなチームが雇われ、クラブのセキュリティやマネージャーと一緒に仕事をするのが一般的です。例えば、5人のセキュリティがいるとして、イベントの規模に応じて、私たちのチームから2人のセキュリティと会場内のウェルフェアを1、2人雇うでしょう。助けがいる人を見つけたら彼らが私たちに教えてくれて、そちらに向かいます。別のクィアの人が抱えている問題について彼らがよくわからない場合は、私たちのところにすぐきて、『この人はこういう助けが必要だけど、どう助ければいいかわからない』と伝えてくるような感じです。


何であれ正直であることが大切です。クラブに出向いてセキュリティと一緒に動く場合、その人たちが男性で、大きなエゴを持っていることがほとんどだから、相手のエゴを突くのではなく、そっとしておくことが多いです。向こうのセキュリティと打ち合わせをする時私たちが言うのは、『一応お伝えしますが、私たちはあなたたちに仕事のやり方を教えるためにここにいるわけではありません。あなた方の間違いを上司に伝えるためにここにいるわけではありません。私たちはただ、みなさんの手助けをするためにここにいます。もし、みなさんが対処法を知らなかったり不慣れなことがあれば、すぐ私たちに教えてください。そのために私たちはここにいます』。そういうことが状況をスムーズにするようです。誰にでも親切に接しますし、彼らが何か間違ったことをしたとしても、その場その時伝えるようなことはしません。その場合は一旦対処して、後でフィードバックや本来ならどうすればよかったかなどをメールで送ります。みんなの前で叱るとか、そういうことはしません。人はそのように学ぶものではないと思っています」

— ダンスフロアでは、反射ジャケットを着たあなたたちがとても目立ちますね。それは、空間の中で目につくようにという意図的な選択なのでしょうか?


ヤニス「クラブはとても暗いので、見つけやすいことは大事です。私たちのロゴもそう。みんなの記憶に残るような目立つ2色は何だろうと考えて、緑と紫を選びました。もし会場で方向を失っても、ピンクのジャケットは見えるからそれに向かっていけます。とても役に立っていますよ」


— ホームページで、Safe Onlyはスタッフに実質生活賃金を支払う(※ 2023年6月現在、23歳以上向けの最低賃金である全国生活賃金は10.42ポンド。この政府が制定する最低賃金とは異なり、さらに生活費の水準も考慮する18歳以上向け任意の賃金レベルである実質生活賃金はLiving Wage Foundationによると全国で10.90ポンド、ロンドンでは11.95ポンドと計算されている。しかしこれを不十分とし最低賃金15ポンドを呼びかける声もある。)と明記していますね。提供する労働やケアの条件について詳しく教えてください。


ヤニス「これは難しいところですね。私たちはスタッフに最低でも時給15ポンドを支払いたいと考えていて、これは現在ロンドンでは特別なことなんです。ナイトクラブのセキュリティの時給は大抵11ポンドです。ナイトクラブで12時間勤務して、耳をダメージする可能性や、あやうい状況をたくさん対処することを含めてです。基本的に会場にいるすべての人を守るのですが、会場を破壊する人たちからも会場を守らなければなりませんし、多くのことが求められます。それだけのことを時給11ポンドでやるのはありえない。ロンドンはとても物価が高いので、時給11ポンドで週に3回ほど働くとしたら、基本的生活を維持するためにあと2つか3つの仕事が必要になってくるでしょう。私たちにとって、それだけの仕事をこなし、すべての人の安全を守ることを期待されているなら、相応の報酬が必要です。体内時計を変えたりと夜間勤務は健康に悪いので、15ポンドでもベストとは言えません。でもプロモーターとの関係を維持したいので、ブッキングを継続させるために、今のところこの金額がベストです。

プロモーターや箱に請求する最低額は通常20ポンドです。15ポンドが労働者に支払われ、5ポンドが会社に残ります。その分、タクシー制度を利用することができます。私たちにはタクシー制度というのがあって、シフト後にタクシーを呼ぶことができるのですが、その代金を最大で20ポンドまで支給します。会社に残るお金でユニフォームを買ったり、チームミーティングではスナックを買ったり、いろいろなものを提供します。


現在、ロンドンでは私たちが働いているイベントが毎週末あるので、もっと多くのプロモーターをブッキングしたいです。私たちにとって、この輪にとどまり、この仕事を続けることはとても重要なこと。みんなが『このピンクの反射ジャケットが好き』『パーティーでこのジャケットを着てる人を見ると安全なんだって思える』と言ってくれます。自分たちのことを認めてくれて、パーティーに呼んでもらえるのはとても嬉しいです。 来場者たちがプロモーターのところに行って、『パーティーをもっと安全にするために何をしていますか? 私たちのお金が欲しいだけなんですか、それともパーティーで私たちに安全でいてほしいんですか?』と言ってくれることで、プロモーターの姿勢を変えつつあるんじゃないかでしょうか。1、2年前なら、この賃金を払ってくれる人はいなかったと思います。今ではこれを支払ってくれるパーティーや、昨年はしなかったのに今年は私たちをブッキングしてくれるパーティーも増えたし、この価格について再協議してくれるようにもなりました。


このことは、サービスが良く、必要とされ、変化をもたらすものであれば、予算を捻出できることを示しています。以前であれば、セキュリティやウェルフェアは一番最後に考えることでした。そのための予算は組まれないからごくわずかのお金が支払われるだけで、その結果、自分たちが受けるサービスに対して不満を持つようになる。なぜならそれはすべて安く外部委託された人たちによるサービスだから。反面、私たちのスタッフは喜んで職場に行き、最高の自分たちを発揮しています。彼らは然るべき報酬を受け取っていますし、大切にされていると感じているから。最終的には、スタッフにもっと給料を払いたいと考えていますが、今のところはこれでうまくいっています」




— クラブ内のケアはオーガナイザーや会場、プロモーターの責任であって、他所に外部委託すべきものではないという考えについてはどう思いますか? あるいは、特にクィアなウェルフェアチームであるSafe Onlyに労働をアウトソースすることで、会場やオーガナイザーは自分たちのやることを根本的に変えないと思う人もいるかもしれません。


ヤニス「それは今私たちも探っているところです。というのも、多くのクラブや箱が、私たちをブッキングすればそれで十分だと考えていることがわかったからです。私たちの名前をパーティーの横につけて、『Safe Onlyと提携しているので、安心してご来場ください」と言うわけです。しかし、時にケアはそれを越えて差し伸べられるものです。ただ私たちのひとりがパーティーにいて、ベストを尽くしているわけではありません。それに付随するすべてのことも考えなければなりません。 会場で働く人々、例えばバーテンや会場の清掃員のことも気にかけていますか? というのも、私たちがシフトに入ると、自分たちの労働条件について不満を言う会場のスタッフがほとんどなんです。


今これをどうするべきか議論しています。私たちは見せびらかすための形だけの存在ではなく、実際に現在のシステムの構造を変えなければならない。それをプロモーターに伝え、変化を起こす手助けになってもらう必要があります。最終的には、組合を作れば、自分たちを代表して薬物乱用に関する法律などを変えることができるかもしれませんが、誰もそんなことには関心がないようです。
私たちは、ただパーティーを開くだけでなく、他にどうやってコミュニティのためになることができるかを考えてみよう、と人々に伝えています。すべてのクィアの人々のためにパーティーを開くのは素晴らしいことです。しかし、会場を出たあとの彼らのことを気にかけているのか、と問いたいのです。


私たちチームとしての夢は、いずれは自分たちのスペースを借りられるだけの資金を手に入れ、毎週火曜日はみんなが来れて、オフィスでくつろいだり、一緒に映画を観たり、おしゃべりしたり、素晴らしい週末を過ごした後のひとときを過ごしてもらうことです。人生で最高の週末を過ごしたのに、翌日には自分の部屋でひとりぼっちになってしまうのはとても寂しいですから。それはすごく大変で、ただ同じ部屋にいてくれる人が必要かもしれない。だから夢は、いつかロンドンのすべてのクィアコミュニティにそのスペースを提供することです。Safe Onlyのオフィスとして機能し、私たちがメールに返信している間オフィスに座って、元気にしてるか教えてくれたりできるように」






— メンバーへのトレーニングはあるのか、スキル配分はどうなっているのかが気になりました。初めて皆さんの一人、アレックスと会ったのは、クラブで連絡が取れなくなった友達を探している時でした。アレックスは、ドアにいるセキュリティに、友人の性自認を決めつけない形で私の友人のことを説明してくれ、ただ背の高さなどの見た目を描写していて、それが当時の自分にはとても助かりました。人のアイデンティティを決めつけないというのはクィアコミュニティではある程度当然のことかもしれませんが、それ以外の、特定のスキルが必要なことについては、どのようにメンバーをトレーニングしているのでしょう?


ヤニス「第一に、私たちはクィアの人しか雇いません。これはすでに大きなアドバンテージです。もしあなたがクィアなら、他のクィアの人たちと交流したことがあるはずです。現在の問題が何であるかを知っているでしょうから、それは常に大きな助けになります。このことは明らかに私たちのチームにとって大きなボーナスポイントです。私たちのウェルフェアの人の多くは、すでに医療知識を持っています。精神保健福祉士や看護師だったり、自閉症を持った人や高齢者の介護をしてきた人たちです。背景となる知識はすでに持っていて、同時に全員がパーティーピープルです。


しかし、研修期間もあります。新しいメンバーと会い、私たちがどのように仕事をしたいのか、どういう状況なのか、私たちのビジョンは何かを正確に伝えます。そしてその人たちと話して、精神的にどの段階にいるのかを把握するのです。現在の私たちと同じステージにいるのか、あるいは、シフトの中で何度か私たちの後をシャドーイングをすれば、私たちと同じSafe Onlyのサービスを提供することができるのか。彼らの多くはセキュリティ・スクールに行っていたわけではありません。ですがウェルフェアだけであれば、ピア・ツー・ピアに近いです。
クィアであったとして、例えばあなたがゲイであるかといってトランスの人々が受ける問題に必ずしも影響を受けるとは限りません。彼らが現在抱えている問題を知っているとは限らない。だから実際の経験や伝えてもらうことことから学びます。シャドーイングはシフト上とても重要です。その人がクライアントとどのように接するか、どの程度の知識を持ち、どのようなケアを提供できるかを確認できるからです。


その後にパーティーに送り出します。人によって自分が働きたいパーティーだけを選んで参加する場合もあります。そのコミュニティのことを知っていて、そこでなら安心して最高のケアを提供できると思っているからです」


— Safe Onlyのインスタグラムの投稿の中には、ニューロダイバージェント(※ADHD、ASDなどを含む神経多様性)な来場者にも来てもらえるようなスペースを作りたいというものがありましたね。彼らは具体的にどんな問題に直面するのでしょうか。


ヤニス「多くの場合、クラブといえば、いかに最高のサウンドシステムがあるかや、どうすればみんなにクールに見えるかということばかり考えられているのではないでしょうか。そのため、アクセシビリティのニーズがある人たち、大きな音や特定の照明に敏感な人などが見過ごされてしまうのです。なぜなら、残念ながら、大多数の人はアクセシビリティに問題がなく、こうした敏感さがないからです。しかし、少数派の人たちは、それでも遊びに出たいし、楽しい時間を過ごしたいと思っています。


だから私たちは、プロモーターやクラブのオーナーと、この人たちに対してどういうことをしているのか聞くようにしています。『この人たちはあなたのクラブに来て、お金を払っています。彼らのためにどういう改善をしていますか?」それで、5分でもいいから音楽を聴かずに座って落ち着けるような小さなスペースをいつも用意するようにしています。また、車椅子や松葉杖をついている人がクラブに来れるように、アクセシブルな場所を用意するようにしています。会場によってはこのスペースすらありません。ロンドンの地下鉄でさえ、車いすの人にとってはアクセシブルではないんですから。


このような人たちを見過ごし、忘れてしまうのはとても簡単です。でも、この人たちは私たちのコミュニティの一員なのです。音に敏感で、でもクラブに行きたい人たちのために何をしているのか、常に考えなければなりません。クラブに耳栓はあるのかなど、クラブをより安全な場所にするために必要なものを、常に思い起こさせる必要があるのです」





—今のチームメンバーはどんな人たちですか? どのくらいの規模でバックグラウンドはどのようなものでしょうか? 


ヤニス「私たちの元にはウェルフェアチームが20人、セキュリティチームが10人、そして医療補助のメディックが4人います。彼らはちゃんとした医者で、クラブに行って助けてくれるゲイドクターです(笑)。非常に多様なメンバーがいて、POC(有色人種)の人たちがたくさんいます。南アジア、ヨーロッパの国々や、イギリス出身の人たちもいます。でも、私たちのクィアコミュニティはそれ自体が多様なのです。みんな故郷を離れてクィアシーンを見つけるためにロンドンに来ているようなものです。私たちはできるだけさまざまな国から人を雇うようにしています。例えば、ロンドンにはナイジェリアの人がたくさんいて、その中にもクィアの人たちがいます。もしくはアフリカの他の国から来てイシューに繋がっているチームメンバーがいますし、私たちのやり方が間違っているかどうかを教えてくれるかもしれません。私たちはそのような意見に耳を傾ける必要があると思っていて、それを受け入れています。なぜなら、私もダニも白人でヨーロッパ人だからです。私たちは神様じゃないし、間違いを犯すとわかっているので、チームのメンバーが教えてくれることを望んでいます。


でも、バックグラウンドはみんなクィアです。彼らは皆、インスタグラムを通じて、あるいはパーティーで私たちを見かけ、一緒に働いてもいい? と私たちのところに来てくれた人たちです。本当にエキサイティングなことです。私たちはトランスコミュニティに愛着があって、チームにはできるだけ多くのトランスの人たちがいるように心がけています。クラッパム(南ロンドン)のゲイもいれば、東ロンドンのクィアもいる。トランスのドールもいる。みんなチームの一員です」

—トランスの人たちが直面するいろいろな問題について少し説明していただけますか?


ヤニス「イングランドでは今トランスの人たちへの差別はひどいです。日常的に起こっていて、日毎に悪化しているように思えます。私たちにできることは、トランスの人たちができるだけ安全でいられるようにすることです。それは彼らに仕事を与えることでもあります。だから主にトランスの人がいるチームを作れたのは素晴らしかった。彼らはみんな、以前の職場でトランスであることを理由に差別されたり、100パーセント自分らしさを出せなかったりという問題を抱え、私たちのところにやってきました。彼らは皆、居心地がよく、自分らしくいられると感じられるからこそ、私たちのところに来ているのです。悩みを打ち明けられたら、私たちはそれに耳を傾け、悩みを解決するための手助けをしようとします。私のビジネスパートナーのダニもトランスのアンブレラに入る人です。私のハウスメイトはみんなトランスですし、とても身近なコミュニティです。だから私たちは、そのためにできる限りのことをしようと努力しています」

—多くのクィアの人たち、特にトランスの人たちは、入り口でバウンサーを通ってセキュリティチェックされ、身分証明書を提示しなければならないとき、ネガティブな経験をたくさんしているはずです。クィアのセキュリティ・メンバーがいることで、彼らはより楽に感じるのでしょうか? それとも、セキュリティは信用したくないのでしょうか?


ヤニス「私たちは疑いをかけたりしません。違う名前のIDや、写真も違っていたりするけど、この人はトランスで、IDを偽造して入ってきたのではないのだということはわかります。『写真に写っているのはあなたですか?」とは聞きません。『そうだけど、それは10年前の私で、その時の私は違う見た目をしてた』なんていうことを、その人に考えさせてくない。その質問は私たちはしたくない。事実を認めます。だから笑顔で『楽しんでいってね』と声をかけるんです。するとその人はもう気分がよくなるし、クラブに入る前から安心するんです。『リラックスしていいんだ。この人たちはわかってくれてる。私は大丈夫。ここで楽しい時間を過ごせる』と思える。そんな小さなことが、ある人たちにとっては大きな違いなのです」



—近い将来チームで実現したいと思っていることは何ですか?


ヤニス「私たちが持っていた長期的な目標は全て、ほぼ達成しました。例えば、私たちが参加したいと思ったすべてのパーティーで、やっとセキュリティやウェルフェアとして参加できました。近い夢は、もっと大きなセキュリティチームを持つことでしょう。クィアの人だけのセキュリティチームを組むことが難しいのです。だから当面の夢のひとつは、資金を調達して、免許料を払えるようにすること。セキュリティライセンスの取得にはとてもお金がかかります。講習が500ポンド、免許をとるのに250ポンドだから、クィアの人たちにとっては通常大金になります。クィアの人たちにお金持ちはあまりいないですから。理想的には、大きなチームのためにその費用を支払うことができるようになって、10人、20人を1週間セキュリティー・スクールに送り、私たちのチームに参加してもらう。そうすれば、箱側のセキュリティと協力するのではなく、クラブを完全にテイクオーバーすることができるようになります。私たちのセキュリティだけでよくなれば、大きな違いが生まれるでしょう。


他のセキュリティの人と仕事をするときに問題になるのは、彼らのミスをより良くする後始末をしなければならないことです。だから、いつかクラブを丸ごと、しかも自分のチームのためにテイクオーバーできるようになりたいですね。これは夢のような話ですが、実現はしつつあります」


—最後に、あなたにとってクラブスペースとは何ですか? どんなクラブ空間を作りたい、どんなクラブ空間に行きたいと考えていますか?

ヤニス「私にとって、クラブは完全な自由。長年のパーティー好きですが、最近は行かないパーティーも多くなってきました。私が感じたい完全な自由を与えてくれないからです。私は、人々がお互いを認め合い、人々がさまざまな状況にあることを認め合い、ハームリダクションが核となる場所であり、すべてのドラッグユーザーのために安全な場所を作り、ダークルームでセックスをしたいすべての人々のために安全なまさにユートピアな場所を求めています」



※東京のクラブの文脈でハームリダクションを取り上げた例として、2021年にクラブイベント「ether」が主催したオープンディスカッションがある。また東京でコミュニティプロジェクトとしてのセーフティーチームを初めて導入した「WAIFU」では、オーガナイザーだけでなくスペースを安全にしたいと思っている来場者にもSECURITYステッカーを渡し、何かあればそれを身につけている人に声をかけることができる。

Text Yoshiyuki Ishikawa(https://www.instagram.com/yoshiyukiiishikawa/
Photos Safe Only Ltd


Safe Only Ltd
Home https://www.safeonly.co.uk/
Instagram https://www.instagram.com/safeonlyltd/

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