ヴァンパイアのような鋭い牙を持つバンド・サウンドと、フロントを飾るイジーのインディペンデントで美しい存在感で、孤高の輝きを放つ、ブラック・ハニー。ここ日本でも2016年のサマーソニック出演で熱狂を呼んだ彼らが、最新アルバム『Written & Directed』を完成させた。タイトル通り、剥き出しのバンドのエモーションを感じる作品。イジーがアルバムに込めたストロングな思いを語ってくれた。(→ in English)
ーー2016年にサマーソニックでの来日公演はとても印象的でした。当時のことは覚えていますか?
イジー「もちろん! とても美しくて、ユニークな体験でした。バーで飲み明かしたり、ラーメンを食べ、いろんな場所にも行った。私たちにとって、未知の世界のようでありながらも、なぜかホームにいるような心地よさも感じました」
ーーあれから5年の月日が経過しました。クイーン・オブ・ザ・ストーン・エイジのツアーのサポートを務めるなど、多忙な月日だったと思いますがいかがでしたか?
イジー「この5年をひと言で表現するなら”ワイルド”。私たちは2つのアリーナツアーを含めて、信じられないくらいの量のパフォーマンスをこなしてきたんです。今振り返ると、夢のような時間でした。ロックダウンによって思い通りにライヴができない今となっては、あの経験が実に素晴らしいものだったのかを再確認しています」
ーーロベルト・カヴァリのコレクションでもパフォーマンスされましたよね?どんな印象でしたか?
イジー「実は、あの時自分たちに何が起こっているのかわからなかったんです。前日にフランスでライヴを終え、車でミラノまで移動してショーに出演するという強行スケジュールで、(このショーに関わった日は)1時間くらいしか睡眠できなかったから。会場に到着するとバンド名が壁の至るとことに貼られていて、そこで私はデボラ・ハリー(ブロンディ)のようなミニドレスと、レトロなブーツというコスチュームを纏って、ロックンロール・シンデレラのような気分を味わったんです。最後にはクリエイティブ・ディレクターであるピーター・デュンダスに誘われてランウェイを歩くこともできた。その後、関係者と打ち上げをして、ミラノのカフェで朝食をとって終了するという、ジェットコースターのような1日だったことを覚えています」
ーーこの5年の間、イジーはロック・ミューズとしてさらなる魅力を得たように思います。この5年で変化はありましたか?
イジー「常に飾りのない自分を表現することだけを考えてる。この音楽界において大切なことは、何かに流されないということだと思うんです。また固定したイメージを作り出すのは本当に大変なこと。だって人は日々成長し、進化していくものだから。でも、私たちのルーツは常に王道のロックンロールにある。みんなが携帯電話のスイッチをオフにして、踊りたくなるような音楽を作りたいという、その芯はブレていない。このバンドは、それがありきで活動しているし、ロックンロールと共にこれからも続いていくと思います」
ーーそして完成したアルバム『Written & Directed』。タイトルからしても、エモーションが伝わってくるものですね。
イジー「この作品は、最もバンドの芯を捉えた作品になったと思います。私たちの音楽的な主張だけでなく、みんなをここではない場所へ導いてくれる効果があるような、映画の主人公になったような気分を味わえるものになったんじゃないでしょうか」
ーー全曲、どれもバンドの息遣いが伝わる「生」な音ですよね。
イジー「リスナーのみんなが、私たちのことをリアルに感じてもらえる音にしたかった。まるで私たちがみんなの部屋で音をかき鳴らしているような臨場感をアルバムに投影させたかったし、思い出をスクロールしているようなイメージを与える音にもしたかった」
ーーこれまでの作品との違いは?
イジー「前作に比べて、より“ヘヴィー”な音に進化したと思います。今回は、何度もレコーディングを繰り返し、自分たちが納得できる音をとことん追求しました。おかげで、とても完成度の高い、誇りを持てる作品になった。貴重な経験ができたと思っています」
ーー制作期間にロックダウンの影響もあったのでは?
イジー「実は、ラッキーなことにロックダウンになる前にレコーディングを終了させていたから、何も影響がなかったんです。でも、収録曲の“Disinfect”(消毒)は、今の状況を予見しているような内容になっていて。これは2019年の夏に書いたものなんだけど、『私たちは、暴力に取り憑かれたウイルス』というフレーズはまさに今を言い当ててる感じ。予言者なのかも(笑)。でも、こういう考えや恐れを以前から抱えていて、それがフレーズに反映されただけなのかもしれない」
ーーアルバムにゲスト・ミュージシャンは参加されているのでしょうか?
イジー「ナッシング・バット・シーヴスのドム(ギター)が“Back of the Bar”という楽曲で参加してくれました。そこで私は、ザ・リバティーンズのカール・バラーなどと一緒に死ねたら最高って書いて。あと、ロイヤル・ブラッドのマイク・カーと一緒に“Run for Cover”も制作してます」
ーー今回のミュージック・ヴィデオを拝見していると、1960~70年代のサイケデリックやヒッピーな雰囲気が漂っている気がしたのですが、その影響は音作りにも反映?
イジー「『ダスティ・スプリングフィールドがメルトダウンしたような音楽』と評されたことがあるんだけど、まさにその通りだと思いました(笑)」
ーーアルバムではホーンを取り入れた楽曲なども収録。バンド・サウンドだけでない要素も感じました。
イジー「私たちは、ブラス・アレンジが大好き。でも、最近のロックでは、それを取り入れたものが少ない気がしたから、ここでオリジナリティを表現できるんじゃないかと思って」
ーー“Summer Of ’92”はタイトル通り1990年代テイストを感じるナンバーですね。
イジー「この楽曲で1960年代の『サマー・オブ・ラヴ』のムーブメントの感覚、そして90年代のニルヴァーナを聴きながらスケートボードをするような雰囲気をコラージュさせたような音楽を作りたかったんです」
ーー“I Like The Way You Die”は、ノイジーなギターが印象的なとてもエキサイティングなナンバーですね。
イジー「私は悪役の女性が大好き。彼女たちの存在は美しく、そして観ている者にパワーを与えるから。そんな彼女たちの魅力を異なる角度から表現してみたいと思いました。結果、強烈に美しい炎に包まれた女性像を描けたんじゃないかな」
ーーこの楽曲のミュージック・ヴィデオは、女性がヴァンパイアに変身するというユニークなものですが、このヴィデオのコンセプトは?
イジー「2017年に公開されたホラー映画『THE LOVE WITCH』の世界にインスパイアを受けて制作したヴィデオ。女性の持つ力を遊び心あふれる感覚で表現できたというか、それぞれ異なる欠点や美しさを放つヴァンパイアを描くことができたと思う」
ーーアルバム全体を通じて伝えたいことは?
イジー「みんなには、好きなように世界に足を踏み入れてもらいたい。いじめに立ち向かうような、逞しさを身につけてもらえたら嬉しいな」
ーー2021年はどんな活動を?
イジー「日本をはじめアジアの各地をツアーするという目標があります。出演が予定されているフェスやイベントでちゃんとパフォーマンスがしたい。そこで思いっきり、みんなとハグしたりクラウド・サーフィンをして、たくさんの友人を作りたいです。きっと、その夢は実現すると思ってます」
ーー日本のファンへメッセージをください。
イジー「このロックダウンが終わったら必ずみんなの元に戻るから、その時のためにちゃんと準備しておいてね。よろしく!」
Photography Laura Allard Fleischl
text Takahisa Matsunaga
Black Honey
『Written & Directed』
Now on Sale
https://blackhoneymusic.bandcamp.com/album/written-directed