都会の異なる環境を生きる二人の女性が、恋愛や結婚だけではない人生を切り拓く姿を描いた『あのこは貴族』の公開が2021年2月26日(金)に決定。監督は初のオリジナル長編作品『グッド・ストライプス』で、新藤兼人賞金賞を受賞した岨手由貴子(そでゆきこ)。原作は、山内マリコによる同名小説。主人公である上流階級に生まれ育った華子を門脇麦、地方から上京して自力で生きる美紀を水原希子が演じる。奇しくも二人を繋ぐことになる、弁護士・幸一郎役に高良健吾、華子の学生時代からの友人でバイオリニストの逸子役に石橋静河、美紀の地元の友人で同じ名門大学に入学する・平田役に山下リオが決定。
東京国際映画祭での上映に際しての舞台挨拶にて、岨手由貴子監督、門脇麦、水原希子、高良健吾が登壇した。
MCを務めた奥浜レイラが「シスターフッドの映画」と称したように、本作では異なる生き方をしてきた女性たちが交差するものの、そこでの争いはなく、微かなその交わりに互いに何かしらの触発を受け、胸の深くにそこでの気づきを潜ませ、自分の人生をより真摯に見つめる糧としている、まさにシスターフッド、女性たちの静かな連帯を描いている作品だ。
同時に、生まれ育った環境からどう自分の道を切り拓くか、自分のアイデンティティに気づくきっかけやそこに真剣に向かい合うことはどういうことなのかという、ジェンダーに関わらず、誰もが直面する問題へ自分はどう向かうのかという姿勢についても示唆し、考えさせる内容。
原作の言葉での表現を、立ち振る舞いや仕草、表情という立体的な表現に見事に落とし込み世界を作り上げた監督とキャスト。舞台挨拶での言葉にも、原作と映画双方への愛情とそれぞれのしっかりと考えられた答えが印象的だった。
――まずは門脇さん。東京生まれ東京育ちの箱入り娘、華子の役を演じられましたが、実際演じられていかがだったでしょうか。
門脇「こんにちは、花子役を演じました門脇麦です。公開は来年の2月でまだ少し先なのですが、今日皆様に観ていただけることを嬉しく思います。華子という役の難しさは色々あったのですが、記号的な、典型的なお嬢様という役にはしたくないなという思いが、台本、原作を読んだときからずっとありました。原作の山内さんは地の文がすごく魅力的で山内さんのキュートさが詰まっていると思っていて、なんとかその地の部分の魅力をキャラクターに入れることができないかなと、そこが一番試行錯誤しました」
――おっしゃる通り、原作の手触りを見事に描き出された作品だなと感じました。水原さんが演じられるのは、地方から名門大学に合格して上京するんですが、家庭の事情でその大学をドロップアウトしなければならなかった都会を自力で生き抜く女性、美紀ですけれど、演じられてみていかがでしたでしょうか。
水原「こんにちは、時岡美紀役を演じさせていただきました水原希子です。この撮影は約2年くらい前だったんですけれど、美紀ちゃんとその時の自分がすごくリンクしているように感じました。美紀ちゃんは田舎から大学入学のために東京に出てきて、いろんな葛藤を乗り越えて生きている強い女性なんですが、そのタイミングで自分が起業したこともあってすごくリンクする部分もあったので、撮影中にいろんな発見もあったり、監督と作り上げていく感じがその時の自分にしかできなかった何か特別な瞬間が詰まっている作品として思い出に残っています」
――高良さんが演じられたのは幸一郎という東京の名家で生まれ、後に華子の夫となる男性ですけれど、美紀とは大学の同級生ということで、奇しくも二人を繋ぐ役柄です。
高良「こんにちは、幸一郎役を演じさせていただいた高良健吾です。そういう用意されたレールの上を歩くというか、それに争う瞬間であったり、気持ちを入れているようで入れてなかったり、素直になりたくてもなれなかったり、そういう葛藤というのは大切にしたいなと思って演じていました」
――名家に生まれたからこその生きづらさ、葛藤というようなものが高良さんが演じる幸一郎から伝わってきました。そして岨手監督なんですが、上流階級の華子、地方出身の美紀という、実は全く異なる階級の二人の物語が別の軸で進んでいくというお話になります。二つの異なる階層を描くことでご苦労された点はありましたか。
岨手監督「監督を務めました岨手です。この物語は、先ほど門脇さんがおっしゃってくださったんですが、上流階級と言ってもわかりやすい漫画のようなお金持ちを描いたものではなく、代々受け継がれている土地だったり社会的地位だったり、そういうものの中で暮らしている人たちを描いた作品なんですね。だからなかなか出会わない人たちですし、そこにリアリティをもたせられるかどうかというのがすごく難しかったです。原作でもそこを大事にされていたので、山内マリコ先生にも取材だったりお話を聞いたり、とても協力していただいてなんとかリアリティというものをつかんで撮影に挑みました」
――実は門脇さんと水原さんが一緒というシーンはあまりなかったそうですね。別々の物語を完成して、お互いにご覧になってどんな感想をお持ちになったか。門脇さん、美紀の人生はどうでしたか。
門脇「本当に現場ですれ違ったりもしなかったので、美紀のパートがどのようなものになっているか想像もついてなくて。前半はわりと華子が出てきて、後半はわりと美紀が出てくる感じなのですが、ちょっと違う映画というくらい華子は硬い絵で、希子ちゃんが軽やかな方なので、すごく伸びのある感じの軽やかな後半パートになっていて、でもそれがふっとふたりが交わる瞬間になった時に、ああ、これはこういう映画だったんだって初めて思って、パーツが繋がる感じがありましたし、とにかく希子ちゃんが演じる美紀が最高に格好良くてかわいくて素敵です」
――逆に水原さんからご覧になって華子のシーンはどう映りましたか。
水原「そうですね、私も華子のシーンがどう描かれているのか想像がつかなかったのですが、試写で観た時に、最初のタイトルが出てくる時の華子が本当になんとも言えない表情をしていて、あれだけでひきこまれてしまうというか、本当に魅力的で麦ちゃん格好いいなと思いました。そしてお互い全く違う世界で生きているんだけれども、交わる時の人間の美しい部分というのを感じられる素晴らしい瞬間があるので、そういう時間を共有できたことを素晴らしいと思いますし、女の子の映画だけれど、全人間が共感できる美しい部分が詰まっているんじゃないかなと思っています」
ーーふたりが交わるあの連帯のシーンに私は涙しました。そして高良さん、お二人とそれぞれ接点がある役柄で、先ほども心がけていらっしゃったことをお話しいただいたんですが、また二人とは階層階級が違う人生を抱えている男性ですね。
高良「重複する部分があると思うのですが、自分は地方出身で自分の足で何かを探しに行ったりしなくてはいけなかったのですが、幸一郎というのは生まれながらにして全てが用意されていて、それが全て一流のもので、そこでの生きづらさというのが自分ではなかなかわからなかったりもしたのですが、演じていて、みんなにはわからないかもしれないけれどこの人が持つ葛藤だったりを感じて。また二人とやっていて思うのが、美紀とは開けるしやりやすい部分があったり、華子とはちょっと開けなかったりやりづらさを感じるというのは、ふたりがそうさせてくれていたのだと思いますし、二人とやる分自分はそういう面白さを感じることができました。日本でもそうですが、東京の中にはよりいろんな細かいそれぞれの居場所があると思うのですが、その交わることのない居場所というのが交わった時の面白さというのがこの映画の面白さだと思います。女性陣がみんなかわいいし、格好いいというのは観たらわかると思います。格好いいですよ、なんか、ねえ?」
一同笑
――監督、本当に個性豊かな、そしてたのもしい俳優陣を迎えての演出をされてみてどのようなご感想を抱かれましたか。
監督「こちらにいるお三方と山下リオさん、石橋静河さんがメインで役柄を演じていただいたのですが、本当にキャララクターも5人それぞれ違いますし、役に対してのアプローチも全員違っていて、正直監督としてはこんなにいろんな人がいろんなアプローチで演出しないといけない というのは初めてだったんですけど、脚本で設計したキャラクターからどんどんずれていって、ずれていった理由というのは脚本上では想像できなかった感情のきびというものを皆さんが『こう思うんだけど』『こうやりたいんだけど』っていう風に言ってきてくださって、じゃあそうしましょうかってやってくうちに完成形のキャラクターが出来上がったという印象があるんですね。編集してみて本当に生き生きした人物になっていて、役者さんが演じることによって命が吹き込まれた。言葉では聞いたことはあったけどここまで実感させられた経験は初めてでした」
――最後に門脇さん、映画をご覧になる皆様に一言いただけますか。
門脇「私は個人的にこの映画は解放の物語だと思っていて。どうしても人は生まれながらにというか、学生生活を送り社会人生活を送り、自ずと自分のことをカテゴライズしてしまうというのは必然で無意識にあると思うんですけど、でもちょっと角度を変えてみたり、新しい出会いに出会ってみたり、そうするとバッと自分の視界が開けたり、もっともっと自分のいいところを見つけられたり、 もっと自分のことを好きになれたり、そういうことってきっとたくさんちりばめられていると思っていて、それをちゃんと見つけてあげられるかで人生がちょっとよくなるかもよという映画のような気がしています。映画を観終わった後、少しでもみなさんがいい自分が自分の中にもっといるかもなという気持ちになっていただけたら嬉しいです」
text Ryoko Kuwahara
撮影日:2020年11月5日
撮影場所:EXシアター六本木
サムネイル画像クレジット:(C)2020 TIFF
ほかキャスト、原作者コメント
石橋静河(相良逸子役):
今回、初めてプロのバイオリニストの役を演じることになり、短い期間でしたが猛特訓をして、肩がガチガチに凝りながらも、なんとか自分なりの精一杯を形にしました。お芝居の面では、門脇麦さんと水原希子さんという人間的にも素晴らしいお二人とご一緒できたことがとても嬉しかったです。ぜひ劇場でご覧ください!
山下リオ(平田里英役):
私は、日々生きていく中で、社会には見えないカーストがあるのでは?と思うことがあります。そして、その社会の目を気にしながら、自由に生きることは難しい。台詞の一言一言に共感し、そんな社会に生きる女性たちが、足掻きながらも成長し、逞しく生きていく姿に、いつしか私自身がリンクし、演じながら勇気をもらっていました。撮影中、岨手監督は、優しく背中を押し続けて下さいましたし、水原希子ちゃんとは、旧友のように居心地よくいさせて頂きました。あの一瞬一瞬が、すべて愛おしい時間です。ありのままの自分を抱きしめてあげたくなる映画になっているのでは。
是非、たくさんの方に観ていただきたいです。
原作・山内マリコ:
映画『あのこは貴族』、正直に言ってわたし、ものすごぉーく気に入ってます。2021年の日本映画の大収穫の一つなんじゃないかと。籠の鳥のようなヒロイン華子は、いつも安全なタクシーの中から、二度目のオリンピックを夢見て普請中の東京を眺めます。そして上京者という名の越境者であるもう一人のヒロイン美紀は、バッグを斜めがけにして自転車を漕ぐ。異なる階層に属する二人を岨手監督は、移動手段ひとつとっても映画的にアプローチしている。その演出力は本当に見事で、主役から傍役まで役者さんたちは誰もがその役柄を生きていて、命が吹き込まれるってこういうことかと唸りました。深みのある映像、美術、衣装、音響、どれをとっても丁寧ないい仕事ばかり。映画を観るよろこびをビリビリ感じます。世襲され固定化した社会階層と、女性をしばる価値観。女同士を分断させてなるものかと橋をわたす、逸子の存在。原作に込めたメッセージを大事にしてくれているのは、監督の作家性とこの物語が、ちゃんと共鳴しているからにほかなりません。監督ありがとう。岨手監督に撮ってもらえて、とても幸せな作品となりました。
【ストーリー】
東京に生まれ、箱入り娘として何不自由なく成長し、「結婚=幸せ」と信じて疑わない華子。20代後半になり、結婚を考えていた恋人に振られ、初めて人生の岐路に立たされる。あらゆる手立てを使い、お相手探しに奔走した結果、ハンサムで良家の生まれである弁護士・幸一郎と出会う。幸一郎との結婚が決まり、順風満帆に思えたのだが…。一方、東京で働く美紀は富山生まれ。猛勉強の末に名門大学に入学し上京したが、学費が続かず、夜の世界で働くも中退。仕事にやりがいを感じているわけでもなく、都会にしがみつく意味を見いだせずにいた。幸一郎との大学の同期生であったことから、同じ東京で暮らしながら、別世界に生きる華子と出会うことになる。二人の人生が交錯した時、それぞれに思いもよらない世界が拓けていく―。
映画『あのこは貴族』
公式サイト: anokohakizoku-movie.com
2021年2月 26日 (金)全国公開
監督・脚本:岨手由貴子
出演:門脇麦 水原希子 高良健吾
石橋静河 山下リオ 佐戸井けん太 篠原ゆき子 石橋けい 山中崇
高橋ひとみ 津嘉山正種 銀粉蝶
原作:山内マリコ「あのこは貴族」(集英社文庫刊)
配給:東京テアトル/バンダイナムコアーツ
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
公式Twitter&公式Instagram:aristocrats0226